東銀座「トワヴィサージュ」

エノキという主役。  

食べ歩き ,

いまだかって、フランス料理店の主役に、エノキが躍り出たことはない。
いや、日本料理店やイタリア料理店、中国料理店でも、エノキを主役にした料理には、出会ったことがない。
あまりに存在が地味であり、安価というイメージがあるからからだろう。
私ではお金を取れません。
エノキは、そんな顔つきをしている。
しかし34歳の國長シェフは、主役に抜擢した。
「極エノキを初めて食べた時、こんなにおいしいエノキがあることに驚き、主役にした一皿ができないかと考えました」。
今その皿が、目の前にある。
豚肉とエノキを合わせたソーッセージである。
噛めばエノキの香りとうまみが、じっくりと広がっていくではないか。
太いエノキを口に突っ込まれたかのような、凝縮感がある。
そこに野菜の皮や端材でとった野菜ブイヨンソースが加わって、旨味をそっと膨らます。
「フランス南西部、ガスコーニュ地方の郷土料理です」。
そう言われたら信じてしまうかもしれない、無理のなき、馴染んだ味わいである。
おそらく豚肉を増やしたら、もっとおいしくなる。
だがそれではエノキの持ち味は薄れてしまう。
比率をどれくらいにするか。
何度も何度も、試行錯誤を繰り返したのだろう。
しかし出来上がった料理は、そんな苦労など微塵も見せずに、すうっと自然に佇んでいる。
ああ。新たな料理ができる瞬間に立ち会うことは、どんなに素晴らしいことなのだろうか。
東銀座「トワヴィサージュ」にて